月の模様は金木犀

2006年生まれ 音楽が好き

シーグラス

 

小学生の頃、帰り道に大きな水たまりができる砂利道があった。雨が降ったあと、空の鏡が張ったその上を、別世界に迷い込むかのように歩くのが好きだった。私は今でも、日常のどこかに自分の世界へ迷い込める入口を探している。あの時、鏡に映った電波線の上を本当に歩いているみたいだった。あの瞬間、私は本当に空を散歩していたと思う。

 

時々こんなふうに、私の周りを漂う記憶の欠片の一片に、思いがけず光が差し込んできて私の瞳を的に輝く瞬間がある。その光が白く私の瞼の裏を遍(あまね)いて、私は一瞬でその記憶の中に引き込まれてしまう。17年間生きてきて、多くのカットを撮ってきたはずなのに、いつも私が見つける光は同じだ。私が現在進行形で撮っているこの長いシーンにもきっと、ハイライトとなる瞬間があって、ある日光が差し込んでキラキラと私の瞼をあたためるんだろうな。なんだか、記憶ってシーグラスみたいだ。私はシーグラスが散らばった波打ち際を歩いていて、普段は気にも留めないのに、ある瞬間目に止まって、拾い上げて、透けて見えそうで見えないそれをしばらく眺め続ける。記憶が近ければ近いほど角張っていて鋭いけれど、記憶が遠くなれば遠くなるほど丸みを帯びて、触れても傷つかなくなるだろう。